誕生日のプレゼントは何がいいかと訊かれて、何も答えることが出来ませんでした。
もともとテンテンは物欲があまり無いほうで、今も欲しいものは特にありませんでしたし、かといって下手なものを要求すれば相手を困らせてしまいかねません。
何より、恋人と呼べる人がいる状態で誕生日を迎えるのは初めてのことだったので、こういう時にどう答えるのがベストなのか分からなかったのです。
テンテンが無言で固まっている間も、リアはずっとニコニコしながら返事を待っていました。何か返してやりたいのに、頭に浮かぶのはそんな彼女の様子がいじらしくて可愛いなどと、そういうことばかりです。
ずっと待たせるのも悪いと思い、結局テンテンは思ったことを正直に答えることにしました。
「……特にない」
「そっかあ……」
返事を聞いたリアは微笑んだままでしたが、八の字の眉をさらに下げてしゅんとしたのを見て、テンテンはしまったと思いました。
恋人の誕生日といえば、カップルにとっては一大イベントであることくらいは恋愛経験のほとんどないテンテンにも分かってはいます。
それに対して、今の返事はあまりにも素っ気なさすぎました。返す言葉が二言三言なのはいつものことでしたし、自分が口下手なことを自覚していて、それを恨めしく思ったことは一度や二度ではありませんでしたが、それにしたってもっと良い言い方があったような気がします。
そんなとき思い浮かんだのは、軟派な同期の顔でした。フィンならもっと上手く、彼女を喜ばせてあげるようなことを言えただろう、アイツならこういうときどんな言葉を言うだろうと、頭の中で想像して見ました。そうしてイメージしたセリフを、しゅんとしたままのリアにかけてみようと思いつきました。
「その……物とかはいらない。……一緒に過ごしてくれたら、それだけで嬉しい…から」
我ながらなんて歯の浮くようなセリフを言ったものだと、テンテンはすぐさま恥ずかしくなりました。言ったそばから顔が熱くなって汗が流れてきます。言い方はフィンの真似事でしたが、一緒に過ごせたらそれだけで嬉しいという気持ちそのものは自分の本音なので、余計に恥ずかしくなってきました。