脱走したアブノーマリティの鎮圧を終え、メインルームへのドアをくぐるなり、ジーニーは1つ溜め息をつきました。もうすっかりこの会社の業務に慣れてはいましたが、それでも命のやり取りをした後は疲労感が残ります。

ジーニーはあまりそう言った弱いところを他人に見せる性質ではありませんでしたが、幸いなことに、今このメインルームにはジーニー1人しかいなかったのです。

武器に付着した汚れを簡単に拭き取り、手に取りやすい位置に立て掛けると、ゆっくりと休憩スペースのソファに腰を下ろしました。

一度天井を仰いでから、ふと前のテーブルに視線を向けると、紙コップが一つだけ置かれたままになっていました。

少し身を乗り出して中身を覗いてみると、今まで見たこともない、何か真っ赤な液体が半分ほど入ったままでした。よく見れば縁に赤く染みた部分があり、誰かが飲みかけのまま置いて行ってしまったことが察せられました。

ジーニーがしばらくの間、不思議そうに紙コップの中身を眺めていると、メインルームのドアが開く機械音が聞こえて、作業に行っていたアランが帰ってきました。

「よっ、お疲れさ~ん」

手をひらひらと振りながらアランは話しかけてきましたが、ジーニーはチラリとそちらを見ただけで、何も言いませんでした。

まるで端から返事がないことを分かっていたように、特に気にする様子もなく、アランはソファのもとへやってきてジーニーの隣に腰掛けます。

いつもなら、こうして他人に近寄られると逃げてしまうジーニーでしたが、ソファに座ったまま、視線をテーブルの上に戻しました。

ジーニーの視線が紙コップの中身に向けられていることに気付いたのか、アランが話しかけてきました。

「そのトマトジュース、アントンのだな。好き嫌いしないでたまにはこういうのも飲めって言ったんだけど、アイツ飲まなかったのか」

呆れた様子で肩をすくめるアランを見て、ジーニーはコップから目を離さないまま、顔を上げずに呟きました。