エレベーターのドアが開いてすぐ、今は見慣れた派手な髪色の人物が居るのをみとめて、サミュエルはここまで引き摺ってきたそれを放り投げました。
懲戒チームの廊下の暗い赤より少し明るい血を散らしながら転がったそれは、抽出チームの事務職の制服を着ている人間ではあるのですが、本来はどこに目や鼻があったのかもよく分からないほど顔は腫れ上がり、手首も足首もあらぬ方向に捻じ曲がっています。かろうじて生きていることと、身体つきで男性であろうということだけは分かりました。
サミュエルを含め十三人しかいない管理職のうち、懲戒チームを担当しているダフネは、目の前に転がされたそれとサミュエルとの間で視線を何度か往復させた後、溜め息をついて手に持っていたモップを壁に立てかけました。
「ンだよ、ここの掃除すりゃ終わりだったのに……。ソイツ、どうしたンだ?管理業務の時間はとっくに終わったろ、パニック起こした奴が残ってたのか?」
規則違反や職務放棄など、問題を起こした職員の対処と始末をするのが懲戒チームの仕事です。ここに連れて来られたということは『そういうこと』なのだろうと判断したのでしょう、ダフネは面倒臭そうに頭を掻きながらサミュエルに訊いてきました。
「知らねえ。いきなり刺されたから大人しくさせた」
「刺されたってお前……」
訝しげに毛の無い眉を上げたダフネに、サミュエルは左腕に深々と刺さったままのカッターナイフを指差して見せると、彼はぎょっと目を剥きました。白いシャツには血が滲んで、今もまだ少しずつ染み出ては指先まで伝ってぽたりぽたりと床に落ちていましたが、サミュエルがあまりにも平然としているので、彼はそれまで全く怪我に気づいていなかったようです。
「おいおいおい!お前、それ……」
「大したことねえ。それよりコイツの始末頼む」